先の2犬種は下毛を持たず、毛が伸び続けるので切り続ける必要があります。ポメラニアンは下毛がぎっしりある代わりに毛が一定の長さで止まるので、全身のトリミングは本来いりません。そして——短く刈ると、二度と元の毛が生えてこないことがあるそうです。
この記事では、ジャパンケネルクラブと国際畜犬連盟の犬種標準をたどりながら、大きさ・被毛・抜け毛・サマーカットの注意・性格・かかりやすい病気・迎え方までをまとめます。トイプードルのレオとシーズーのあんずと暮らしている立場からの実感もまじえました。
ハル
涼しくしてあげてるつもりが、逆効果になることがあるらしいの。
あんず
あんずはカットしてもらうと、ごきげんになるもん!
レオ
あの毛そのものが、暑さと寒さから体を守る道具なんだ。
タル吉
重たく見えるものが、そのまま身を守っておることもあるのじゃ。
ハル
知らないと、よかれと思ってやったことが裏目に出ちゃうかもしれないから。
ポメラニアンってどんな犬?原産地と「体重に数値がない」犬種標準
原産地はドイツです。犬種名は、ドイツ北東部からポーランド北西部にまたがる「ポメラニア地方」に由来します。
意外だったのは、祖先がソリ引きや家畜の番をしていた寒冷地の使役犬だったことです。あのふわふわは、寒さをしのぐための装備だったんですね。
もっと驚いたのが体の大きさの歴史でした。18世紀にイギリスへ渡った当時は体重14〜23kgほどの中型犬だったと記録されています。その後ヴィクトリア女王が熱心に小型の個体を集めて繁殖したことで、今の姿へ変わっていったとされます。
いまの標準サイズから考えると、にわかには信じにくい話です。
面白いのは、体重に数値がないことです。前回書いたヨークシャーテリアはその逆で、体重(3.2kgまで)だけが決まっていて体高の規定がありませんでした。犬種によって「何で大きさを測るか」が違うんですね。
ちなみに、1912年のタイタニック号の沈没で救命ボートから生還した犬3頭のうち、2頭がポメラニアンだったという記録も残っているそうです。小さくて抱えやすかったことが、そのまま生死を分けたのかもしれません。
なお、もともと中型犬だった名残で、標準より大きめの骨格の子が生まれることもあるそうです。これは異常ではなく、急激に小型化してきた歴史から来る個体差だと説明されていました。
ふわふわの正体はダブルコート|マルチーズ・ヨークシャーテリアとの決定的な違い

左がポメラニアン、右がマルチーズのイメージ。
国際畜犬連盟(FCI)の犬種標準を読むと、ポメラニアンの被毛はこう書かれています。
「ダブルコート。長くまっすぐで立ち上がる上毛と、短く密な、綿のような下毛」——この「綿のような下毛」が、あの丸いシルエットを作っています。
ここまで3犬種を調べてきたので、並べてみます。いずれもFCIの犬種標準の記述です。
こうして並べると、ポメラニアンだけが「切らなくていい犬種」だと分かります。毛が一定の長さで成長を止めるためです。
お尻まわりや足裏、肉球の間など、衛生のために部分的に整えるくらいで十分とされています。
わが家のレオ(トイプードル)とあんず(シーズー)は、どちらも毛が伸び続けるのでサロン通いが一生続きます。「トリミング代が生涯かかるかどうか」は、犬種による大きな違いなんだと、3犬種を続けて調べてようやく実感できました。
ポメラニアンの抜け毛は多い|換毛期と毎日のブラッシング
下毛があるということは、抜け毛が多いということでもあります。ここはマルチーズやヨークシャーテリアと正反対でした。
とくに春と秋の換毛期には、下毛がごっそり抜けるとされています。
抜けた毛をそのままにすると、被毛の中で絡まって毛玉になり、通気が悪くなって皮膚のトラブルにつながります。そのためブラッシングは原則として毎日がすすめられていました。
- スリッカーブラシで、根元から抜けた毛(死毛)を取り除く
- そのあとコームで毛並みを整える
- ついでに皮膚のしこりや傷がないかを確認する
面白いなと思ったのは、「毎日ブラッシング」という結論は3犬種とも同じなのに、理由がまったく違うことでした。マルチーズとヨークシャーテリアは絡まって毛玉になるから、ポメラニアンは抜けた毛が溜まるからです。
あんずも下毛があるので、ブラッシングすると手ぐしに毛が残ります。掃除の手間という意味では、ポメラニアンはあんず寄りということになりそうです。
ブラッシングは毛のためだけでなく、体を触って確かめる時間でもあります。皮膚にしこりがないか、傷んでいるところはないか。毎日さわっていれば「いつもと違う」に気づけます。わが家でも、レオの小さな変化に先に気づいたのはブラッシング中でした。毛の多い犬種ほど、見ただけでは分からないので、手で確かめる習慣が効いてきます。
サマーカット・柴犬カットの落とし穴|毛が戻らなくなることがある
ここが、今回いちばん知ってよかった部分です。
見た目の愛らしさから、バリカンで全身を短く刈る「柴犬カット」や「サマーカット」が人気です。でも動物病院からは、はっきりした注意が出ています。
毛周期が止まってしまうことがある
複数の動物病院が説明しているのは、バリカンで5mm以下ほどに短く刈ると、毛根や毛包への刺激が強くなり、毛の成長サイクルが休止期に入ったまま戻らなくなることがあるというものです。
「サマーカットのあと、毛が生えてこなくなった」という相談が実際に多いそうです。すべての子に起きるわけではありませんが、体質によっては脱毛が固定してしまうとされています。
これはアロペシアX(脱毛症X)と呼ばれる状態と関連づけて語られます。かゆみを伴わず、頭と足先の毛は残るのに、首まわりや胴、おしりのあたりが左右対称に薄くなっていくのが特徴です。名前に「X」とあるとおり、原因は完全には分かっていません。
涼しくするつもりが、逆に暑くなる
もうひとつ大事なのが、短く刈っても涼しくなるとは限らないことでした。
下毛は暑さと寒さの両方から体を守る断熱材で、上毛は紫外線や汚れから皮膚を守っています。刈ってしまうと、直射日光やアスファルトの照り返しを皮膚で直接受けることになり、かえって熱中症のリスクが上がると説明されています。
レオの毛を短くしてもらうと涼しそうに見えるので、同じ感覚でポメラニアンにしてしまいそうです。でも犬種によって毛の役割がまるで違う——これは知らないと絶対にやってしまうと思いました。
どんな見た目になるのか
毛が戻らなくなった場合、頭と足先の毛は残るのに、首まわりから胴、おしり、後ろ足の付け根あたりが左右対称に薄くなっていきます。進行すると皮膚が黒ずんでくることもあるそうです。
かゆがらないので、本人(本犬)はつらくなさそうに見えるのが、かえって気づきにくいところかもしれません。命に関わる病気ではありませんが、皮膚を守る機能は落ちるとされています。
治療は、メラトニンやホルモンを調整する薬、サプリメント、フードの見直しなどを組み合わせて根気強く行うとされます。数か月で生えてくる子もいれば、1年以上かかる子、完全には戻らない子もいるそうです。「切らない」という選択が、いちばん確実な予防ということになります。
どうしても短くしたいときは
短くしたい場合は、バリカンで刈り込むのではなくハサミで仕上げてもらい、毛をある程度残す方法がすすめられていました。トリミングサロンに相談するときは、「バリカンは使わないでほしい」と先に伝えておくのが安全そうです。
なお、脱毛が気になる場合は自己判断せず動物病院に相談してください。アロペシアXは、甲状腺やホルモンの病気などほかの原因を検査で一つずつ否定していくことで診断されるとされています。似た見た目でも原因が違うことがあるということです。
ポメラニアンの性格|甘えん坊と番犬気質が同居している
活発で好奇心旺盛、飼い主への愛情が深い——これがよく挙げられる性格です。学習能力が高く、褒められることを喜ぶので、しつけは入りやすいとされています。
その一方で、祖先がソリ犬や牧畜犬だったことから勇敢で警戒心が強い面もあります。チャイムや物音、見知らぬ人に敏感に反応して吠えることがあり、これは「番犬として優秀」ということの裏返しです。集合住宅では悩みになりやすい部分だと思います。
しつけで強調されていたのは、ここでも叱らないことでした。
- 大声で叱ると恐怖心から噛み癖や不信感につながる
- 吠えたときに叱るのではなく、吠え止んで静かになった瞬間に褒める
- トイレの失敗は無言で片付け、成功したときに大げさに褒める
「静かになった瞬間を褒める」というのは、言われてみればそのとおりなのに、つい逆をやってしまいそうです。
多頭飼いはどうか
群れで働く犬の血を引いているためか、仲間意識が高く多頭飼いに向いているとされます。新しい子を迎えても自分から遊びに誘うなど、関係を作るのが早い傾向があるそうです。
ただし個体差は大きく、飼い主の愛情や寝床を巡って独占欲を出す子もいます。それぞれに専用のケージ・ベッド・食器を用意して、自分の場所を確保してあげることが前提になります。あんずとレオを見ていても、それぞれの居場所があるから穏やかでいられるのだと感じます。
また甘えん坊な性格ゆえに、依存が強くなると留守番でパニックになることがあるとされています。子犬のうちからケージで落ち着いて過ごす練習をして、お互いに依存しすぎない距離感を作っておくことがすすめられていました。
暑さに弱い|温度計は「床から10〜20cm」に置く
祖先が寒冷地の犬なので、寒さには比較的強く、暑さには極めて弱いという特徴があります。日本の夏は、ポメラニアンにとってかなり厳しい環境ということになります。
エアコンの設定温度については、調べた範囲でも情報源によって見解が分かれていました。
冷やしすぎは子犬の体調不良を招くという指摘がある一方、28℃では被毛に覆われた犬には暑すぎて危険という指摘もあります。どちらか一方が正しいというより、その子の様子(ハアハアしていないか)を見て調整するしかなさそうです。湿度は40〜60%に保つこと、除湿を活用することは共通して挙げられていました。
なぜ暑さに弱いのか
犬は人のように全身で汗をかけないので、主に口を開けた呼吸(パンティング)で熱を逃がします。そこへ密な下毛の断熱がかぶさるので、体にこもった熱が抜けにくいわけです。
しかも体高が18〜24cmと低いため、地面や床の熱の影響を人よりずっと強く受けます。夏のアスファルトは表面がかなり高温になるので、散歩は早朝や夜に限るのが基本とされています。
いちばん実用的だと思った話
温度管理で繰り返し書かれていたのが、これでした。
壁の温度計を信じてはいけない——冷たい空気は下に溜まり、床は直射日光や床暖房で局所的に熱くなります。そのため温度計は床から10〜20cm、犬の目線の高さに置いて実測すべきだとされています。
これはポメラニアンに限らず、わが家のあんずやレオ、そして床を歩き回るタル吉にもそのまま当てはまる話でした。今日いちばんの収穫かもしれません。
散歩は1日2回、1回15〜30分程度が目安とされます。骨や関節が細いので長距離を走らせるのは向きませんが、においを嗅いだり外の音に触れたりすること自体に意味があるそうです。
ポメラニアンがかかりやすい病気|飼い主が気づけるサイン
急速に小型化してきた歴史から、いくつか気をつけたい傾向があります。動物病院や獣医師監修の記事で挙げられることが多いものを整理しました。
家庭でできること
- 散歩は首輪ではなくハーネスにする(気管を圧迫しない)
- フローリングに滑り止めマットを敷く。足裏の毛も整える
- ソファやベッドからの飛び降りをさせない
- 体重を増やしすぎない
- 子犬を迎えたら、早めに心臓の聴診を含む健康診断を受ける
年齢によって見るところが変わる
調べていて整理できたのは、心配すべきものが年齢で入れ替わるということでした。
とくに動脈管開存症は、子犬のうちに見つけて手術すれば完治が望める数少ない心臓病とされています。逆に気づかないまま進むと厳しい経過をたどるため、迎えたらまず聴診を含む健康診断を、とすすめられていました。
おうちでできる心臓のチェック
ひとつ、すぐ真似できる方法が紹介されていました。眠っているときの呼吸数を数えて記録しておくというものです。
1分間に30回を超える、あるいは普段より明らかに増えている場合は、目に見える症状が出る前に異常が進んでいるサインのことがあるとされています。
ここに挙げたのはあくまで気づくためのきっかけであって、診断ではありません。あてはまるところがあっても自己判断はせず、気になる様子があれば動物病院に相談してください。わが家も、早めに診てもらってよかったと思ったことが何度もありました。
ポメラニアンを迎えるときに知っておきたいこと
「マール」は認められていない毛色
毛色のバリエーションが豊富な犬種ですが、ひとつ知っておきたいことがありました。
大理石のような模様の「マール」は、JKCの犬種標準では認められていません。マールに関わる遺伝子は、組み合わせによって目や耳の先天的な障害につながることがあるためで、動物福祉の観点から外されているとされています。
珍しい毛色として高値で売られていることがあるので、珍しさが健康上のリスクと結びついていないかは確認したいところです。
マールが関わる遺伝子は、組み合わせによっては視覚や聴覚の障害につながることがあると説明されています。「珍しい」「レア」という言葉で高値がついているときほど、その珍しさがどこから来ているのかを確かめたいところです。
「8週齢」のルール
どの経路で迎えるにしても共通の決まりです。
環境省が定める動物愛護管理法では、繁殖業者が生まれてから56日(8週齢)を過ぎない子犬を、販売のために引き渡したり展示したりすることは禁止されています。令和3年6月1日から施行されているルールです。
早すぎる時期に母犬やきょうだいから離された子は、犬どうしの関わり方を学ぶ機会を失いやすいと言われています。
迎え方の3つの道
子犬の価格については、毛色や血統で幅がとても大きく、信頼できる形で「いくら」と書ける情報が見つかりませんでした。中途半端な数字は誤解のもとになるので、検討される際はご自身で最新の情報を確認してください。生体の代金とは別に、ワクチンやマイクロチップ登録、ケージなどの初期費用がかかる点も見ておくと安心です。
レオ・あんずと比べて|3犬種を調べて見えてきたこと

同じ「小型の長毛」でも、毛の事情はそれぞれ違います。
マルチーズ、ヨークシャーテリア、そしてポメラニアン。3犬種を続けて調べて、はっきり見えてきたことがあります。
「毛の手間」は減らせなくて、形を変えるだけだということです。
- マルチーズ・ヨークシャーテリア…抜け毛は少ない。かわりに毛玉との根くらべと、生涯続くトリミング代
- ポメラニアン・シーズー…トリミング代は抑えられる。かわりに抜け毛の掃除と、毎日のブラッシング
どちらが楽ということはなく、時間を使うのか、お金を使うのか、掃除機をかけるのか——その配分が違うだけでした。迎える前に知りたかったのは、まさにこの部分だったと思います。
多頭飼いという観点では、あんずと同じ「下毛がある子」なので、抜け毛の量は増える前提で考えることになりそうです。うちはレオとあんずで体格が近く、遊び方のバランスが取りやすいのですが、ポメラニアンは体高18〜24cmとかなり小さいので、じゃれあいの勢いには配慮が要りそうだと感じました。
犬種の情報は、あくまで入口だと思っています。うちのあんずも、シーズーの一般的な説明どおりではない部分がたくさんあります。
それでも先に傾向を知っておくと、迎えたあとの暮らしがぐっと想像しやすくなります。ほかの犬種はマルチーズはシーズーとどう違う?とヨークシャーテリアの性格は?毛色の変化・抜け毛・トリミングにまとめました。
ポメラニアンについてよくある質問
寿命はどのくらい?
情報源によって幅がありました。ペット保険の統計をもとにしたものでは13.7〜13.8歳とされ、犬全体の平均(14.1〜14.2歳)と比べるとほぼ平均的か、やや短めという位置づけです。
一方で「12〜16歳」と幅を持たせる資料もあり、臨床の現場ではもっと短い実感を述べる獣医師もいるという報告がありました。統計と現場の実感にはずれがあるということのようです。
抜け毛はどのくらい多い?
下毛が密にあるため多い部類です。とくに春と秋の換毛期にまとまって抜けます。
抜け毛を減らす近道はなく、毎日のブラッシングでこまめに取り除くのが基本とされています。
マンションでも飼える?
体が小さく室内の運動でもある程度まかなえるので、広さの面ではハードルは高くありません。
ただし警戒心が強く吠えやすい傾向があるため、子犬のうちから生活音やチャイムに慣らす 社会化の時間を取れるかどうかが現実的な論点になりそうです。
留守番は得意?
甘えん坊で飼い主への依存が強くなりやすいとされ、長時間の留守番は苦手な子がいます。
子犬のころからケージで落ち着いて過ごす練習をしておくことが、よく挙げられる対策でした。
トリミングには通わなくていいの?
全身を刈るという意味でのトリミングは、本来必要ありません。ただしまったく通わなくていいわけではないようです。
お尻まわり、足裏、肉球の間の毛は伸びると衛生面や滑りの原因になるので、部分的に整えてもらう機会は必要になります。爪切りや耳の掃除もあわせてお願いできるので、「全身カットはしない」と伝えたうえで定期的に通うのが現実的だと思いました。
夏はエアコンをつけっぱなしにすべき?
暑さに極めて弱い犬種なので、夏場は留守中も含めて空調を切らない前提で考えたほうが安全そうです。
そのうえで、温度計は床から10〜20cmの高さに置いて実測してください。人の感覚と床付近の温度はかなり違います。
あんず
ブラッシングの時間、これからも気持ちよくしてね!
ハル
これで3犬種目。少しずつ、みんなのことが分かってきた気がするよ。

コメント